米帝打倒,強硬に転じた習氏の新たな政治運動

中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)は5月20日、対米交渉の司令塔である副首相の劉鶴を伴って突如、革命の聖地を擁する江西省に現れた。今回の目的はスマートフォンや電気自動車の生産に欠かせない戦略部品、ネオジム磁石に関わるレアアース(希土類)加工工場の視察である。

「国際競争力のあるレアアース生産基地を建設しよう」。中国国営中央テレビは、習近平の背後にあるこんなスローガンを大写しにした。米大統領、トランプが打ち出した華為技術(ファーウェイ)を標的にした禁輸措置を意識する。毛沢東時代の「自力更生」の雰囲気も漂う。

レアアースは米側も追加関税の対象から外さざるをえなかった戦略物資だ。「場合によっては対米禁輸も」。習近平、劉鶴そろっての視察は、報復を示唆した強いけん制とも受け取れる。中国は沖縄県の尖閣諸島を巡る問題が起きた際、レアアースの事実上の対日禁輸に踏み切った経緯もある。

中国指導部の国内宣伝政策が「対米強硬路線」に傾いたことで、民間の一部にも呼応する動きが見られる。一部企業は米アップルのスマートフォンを使わないと宣言したと報じられている。半導体の調達を含め自力での生産を探るファーウェイへの応援歌である。

■5月13日の重要決定

習近平氏(右)は地方視察の際も対米交渉の司令塔、劉鶴副首相(左)を伴って出かけることが多い(3月、北京の人民大会堂)=共同
 

習近平氏(右)は地方視察の際も対米交渉の司令塔、劉鶴副首相(左)を伴って出かけることが多い(3月、北京の人民大会堂)=共同

習近平と劉鶴のコンビによる意味深長な地方視察の1週間前、中国指導部内で大きな動きがあった。「5月13日は中国の内政と外交上、重要な日だった。この日から米国に対する強い姿勢が表に明確に表れた」。中国の政治関係者の指摘である。

中国の対米姿勢の急旋回は、その5日ほど前にトランプが「中国が約束を破った」と暴露したことで既に世界へ波紋を広げていた。それは5カ月間もの米中交渉で劉鶴と米通商代表部(USTR)代表のライトハイザーが積み上げた7分野150ページにわたる合意文案の重要部分の破棄である。

中国側は合意文案をいきなり30%も削って105ページにしてしまった。法的拘束力を持つ部分が「不平等条約」に当たる、という共産党内の強い声を受けた態度の豹変(ひょうへん)だった。

中国の「約束破り」に怒ったトランプ政権が対中制裁関税の25%への引き上げを発動すると、中国側も一気に動く。習近平は13日、共産党政治局委員25人による意志決定の場である政治局会議を招集し、党内を対米強硬路線でまとめあげた。

キーワードは「階級基礎」と「大衆の視点」である。そして2017年秋の第19回共産党大会の精神に基づき「初心を忘れず、使命を心に刻め」と銘打った党内教育運動を6月にスタートすると宣言した。だが、これだけでは意味が分かりにくい。そこで中国内の交流サイト(SNS)を通じて広く出回った興味深い解説を紹介しよう。

中国では、かつて人気が高かった米アップルのスマートフォンの販売店が相次ぎ、閉まっている(3月、北京) 
 

中国では、かつて人気が高かった米アップルのスマートフォンの販売店が相次ぎ、閉まっている(3月、北京) 

「両国の対峙は、衰亡する大国と新興大国の発展過程の対峙。米国の独占資本上層部と、マルクス・レーニン主義の労働価値観を掲げる中国共産党の対峙。そして異なる階級基礎の間の対峙である」

中国の監視当局がインターネット上に数多くある似たような文章を削除していないことから、準公式の解説と見てよい。まさに覇権国に新興国が挑戦する構図を指摘する「トゥキディデスのわな」を階級闘争史観から解説する分析である。

さらに「レーニン選集」を引いて帝国主義国家による中国侵略などに言及する。覇権主義の米国に対して大衆の視点に立った闘争を訴えている。この考え方に基づくなら、5カ月間を費やしてまとめた150ページの米中合意文書案は、売国的なとんでもない「不平等条約」になってしまう。

しかし、ことはそう単純でない。歴史を振り返れば、中国の対外強硬路線は時に内部の様々な矛盾を覆い隠す手段にもなってきた。政治、経済の両面で厳しい環境下にある習近平指導部は一旦、強硬姿勢で共産党内を統一し、戦線立て直しに動いている。そんな解釈も成り立つのだ。

その時、大いに役立つのが政治運動である。習近平には6年前、苛烈な「反腐敗運動」で権力を固めた成功体験がある。それと一体だったのが群衆(大衆)路線運動だった。6月スタートを宣言した今回の運動にも似たキーワードがあった。

■抗米映画を突如放映、バノン氏まで個人攻撃

政治局会議で内部固めを図った13日夜、中国は一斉に動いた。中国国営中央テレビのキャスターは夜のメインニュースで「米国がいかなる行動に出ようとも中国側は既に全ての準備を整えている」という強硬な論評を読み上げた。「国際鋭評」と称する共産党の統一見解である。

この論評は、習近平が好む言いまわしで締めくくられていた。「中国経済は大きな海であり、無数の荒れ狂う風雨があっても依然、変わらずにそこにある」。同じ日の深夜、中国は対米報復関税の発動を発表した。

それから3日ほどすると国営テレビは突然、米国の覇権主義に対抗し、北朝鮮を救う「抗米援朝」の映画を繰り返し放送し始めた。朝鮮戦争(1950~53年)の際、建国したばかりの新中国は人民志願軍の形で北朝鮮に兵を送った。米軍との戦いでは多大な犠牲者が出ている。朝鮮戦争を題材とする映画は「米帝国主義を打倒せよ」をスローガンとして1960年代に数多く作られた。

トランプ政権がファーウェイへの部品などの禁輸措置に踏み切ると、中国の国営メディアは同じ「国際鋭評」で、トランプのブレーンだったスティーブン・バノン(トランプ政権の元首席戦略官・上級顧問)を正面から非難する論評を出した。バノンのような「『新右翼』こそ米国の本当の敵だ」と決めつけている。国営メディアが総力をあげて外国の個人を攻撃するのは極めて異例である。

では対米強硬に転じた中国は今後、どう振る舞うのか。米財務長官、ムニューシンは先に次回、北京での米中交渉再開に言及したが、中国側はあえて確認を避けた。あくまで強気である。とはいえ、このままでは中国経済に大きな打撃となる。

■1999年反米デモの教訓

一つ参考になる過去の事例がある。「ちょうど20年前の激烈な反米デモを思い出してみればよい」。ある共産党関係者の指摘である。1999年5月、米軍機がユーゴスラビアの中国大使館を「誤爆」し、中国人3人が犠牲になった。

ユーゴスラビアの中国大使館への「誤爆」に抗議する学生らが投げ付けたペットボトルに入っていたペンキに染まり、窓が破壊された北京の米大使館(1999年5月)
 

ユーゴスラビアの中国大使館への「誤爆」に抗議する学生らが投げ付けたペットボトルに入っていたペンキに染まり、窓が破壊された北京の米大使館(1999年5月)

これに抗議する学生ら数万人が北京の米大使館前に集結した。大使館の壁は、投げつけられたペットボトルに入っていたペンキの色に染まり、窓ガラスも破壊された。この時、中国の政府系シンクタンクの研究者は「対米関係は今後、20年にわたって後退する」と言い放った。

だが1カ月もしないうちに状況は変わった。強硬な言葉とは裏腹に妥協への雰囲気が出てきたのだ。米国と事実上の手打ちをした中国はその後、世界貿易機関(WTO)加盟へまい進する。その時、中国指導部が学生を説得した言葉は「中国はまず強くならなければいけない」というものだった。

今回も似たシナリオがありうるのか。20年前と違うのは、世界第2位の経済大国にのし上がった中国が過剰な自信を持ち、覇権を奪われかねないと脅える米国が異常な警戒感を示す現状である。

中国の楊潔篪共産党政治局委員(左)と握手する安倍晋三首相(17日、首相官邸)=共同
 

中国の楊潔篪共産党政治局委員(左)と握手する安倍晋三首相(17日、首相官邸)=共同

先日、訪日した中国外交を統括する共産党政治局委員の楊潔篪。その使命は6月末、大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議の際、習近平が国家主席として初めて訪日する段取りの調整だった。大阪でトランプとの首脳会談が実現するなら、中国が再度、態度を軟化させるきっかけになりうる。

だが、トランプはあくまで強気だ。米フォックステレビのインタビューでは「(中国は)世界を乗っ取りたいと考えている」と非難した。「(米中間で)五分五分の合意はない」とも述べた。トランプの頭にあるのは「非常に強力な良い合意」と高く評価した150ページの米中合意案である。中国が送り返した105ページではない。先行きはなかなか見通せない。

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